確かになんとかならんもんかとは思う。

本を売ろうとしない本屋』(日刊ハリモグラ通信 様)

「日刊ハリモグラ通信」のモグリ様の近所の書店からラノベコーナーが無くなってしまい、それに関しての考察をされています。



う〜ん、これを言われてしまうと、書店員としてはツライと共に哀しいなぁと。
特に新刊のくだり。

新刊も各1冊だけ。
しかも、例えば電撃文庫の新刊が出たらあるのは半分くらい。

ライトノベル、特に電撃は、新刊配本が非常に厳しいです。
それはもう、普通からは想像つかないくらいに。


「年間2000冊」


これ、電撃文庫を出しているメディアワークスが作っている特約店制度「電撃組」に入る為に必要な年間売上冊数なんです。
1日平均5冊強。
新刊の発売日も、そうでない日も、均して1日5冊強。月間で170冊弱。


コミック専門店なら楽勝でしょうし、地域のライトノベル売上1番店レベルならば達成可能な数字ではあると思います。


が、郊外の100坪程度の中小の書店になると、この数字はかなり難易度の高い数字になってきます。


この特約店制度、年間2000冊を売り上げないと特約店になれす、特約店にならないと、新刊配本はほぼ0です。



「特約店にあらずば書店にあらず」と言わんばかりの扱いです(笑)



特約店に配本した後の、残りが一部特約店以外にも配本されたりはしますが、それこそモグリ様が行かれていたお店のように、一部商品が少数入るのみです。


「新刊が入らなければ、追加注文をすればいいじゃない」とどこぞの女王様を気取って言ってみましたが、電撃は当日に追加注文をしても、大半の商品が平気で一ヶ月、二ヵ月後でないと入ってきません。

ライトノベルという商品は、小説でありながら、コミックと同じ売れ方をする商品です。簡単に言うと、「発売日に集中して売れる」商品なんですね。
ラノベを買うお客さんは、発売日に本が欲しいんです。無ければ他所の店に探しに行って買っちゃうんですね。そんな商品の新刊が、一ヶ月後に入ってきても、正直手遅れ。担当者涙目です(笑)


後は「新刊が無いから売上が上がらない」>「売り上げノルマがこなせない」>「特約店になれない」>「新刊配本がない」>以下繰り返し  の「売り上げ上がらないスパイラル」が待つばかり。



一応、電撃が一番キツイので代表してからくりを書きましたが、特約店の条件以外の「配本状況」や、「追加注文の状況」は角川、富士見もほぼ同じと考えていただいて構わないと思います*1



一般のお客さんにしてみれば、「何故、売れる本なのにたくさん仕入れないのか?」と思われるかもしれませんが、基本的に「仕入れない」のではなくて、売れると分かっている商品でも、出版社or問屋が「商品をくれない」のが実情なんです。
本には「再販制度」が適用されているのはご存知かと思います。簡単に言うと、「残ったら返品してくれて構わないので、商品を置いてください」という制度です*2。これは、「本」というものが持つ、本来の役割を活かす為に作られた制度なのですが、それに関しては、ここでは置いといて、この、「残ったら返品してくれてかまわない」が曲者なんですね。
「残ったら引き取る」というリスクを出版社が負っているので、逆に出版社には「どこにどれ位配本する」かを決められる権利が発生してくる訳です。
すると出版社は、全国の書店に一定数の配本をするよりも、「売れる店」、「売ってくれる店」*3に集中して配本するようになります*4
これによって、中小の書店では売れることが分かっている商品であっても仕入れる事が出来ないという状況になってしまい、追加注文に関しても同じ事が続くので「あんなに売れている本なのに置いてないの?」とお客さんに言われて担当者は夜な夜な枕を濡らす事になる訳です。「俺が売らないんやない!出版社が売らせてくれへんのや!(涙)」(笑)


もちろん、この状況は担当者の努力とコネによっていくらか「マシ」な状態にする事が可能ではありますが、モグリ様の近所の書店では、その「手間」と、「売り上げ」と、「売り場面積*5」のバランスが取れない、とお店or担当者が判断した事で、ラノベコーナー廃止という形になってしまったのではないかと思います*6




と、ここまでモグリ様の近所の書店の弁護みたいな事を書いてきましたが、ぶっちゃけて言うと、確かに、そのお店はラノベを売ろうという気が薄いという意見は間違いではないと思います(笑)
ただ、新刊が抜けていたりという、モグリ様が指摘されておられる問題点に関して、書店としてもどうしようもない事があるという事を、書店勤めをしている人間として、少しだけ理解をしてあげて欲しくて、長々と書かせていただきました。
いつも行かれていたお店に裏切られてしまったのは、悲しくて腹立たしい事かと思いますが、ほんの少しだけでも、誤解を解いて、ちょっとだけでも許してあげていただければ幸いに思います。

*1:系列会社ですしね

*2:本当はもっとややこしいです。

*3:要は、読者が「ここなら間違いなく売っているであろう」と考えて、わざわざ買いに出かけてくれる店

*4:個人的に、この考え方は再販制度の目的に反していると思うのですが…。

*5:売店にとって、賃貸物件であれ、自社物件であれ、土地にお金がかかっている以上は「スペース」というのは経費であります。その経費に見合った売り上げがなく、この先も見込めない場合、他の商品を置くという判断もビジネスではあります。ただ、「ビジネス」だけで事を考えてはいけないのが、書店というビジネスでもあると思います。

*6:近所にラノベが強いお店があるという事も、決断に拍車をかけた要因だと考えられます