実はコミックの限定版には二通りあります。

限定版コミックの存在を書店の人はどう考えているんだろう「空気を読まない中杜カズサ」中杜カズサ 様)

ゴルゴ31様で上記のエントリーが紹介されていたので、拙いながら、私の意見など。
ていうか、前半分は関係ない話でなくないか?w


まずは限定版コミックのお話。


実はコミックの限定版には二通りあります。

まずは、フィギュアやストラップ等、高額な商品を中心とした、「事前に告知を行い、読者からの予約を受け付ける、買切扱い*1」の商品。
(ex.「鋼の錬金術師」を始めとするスクエニマッグガーデン角川書店ワニブックス等が出す、大半のものがこれに当ります)

これは予約の締め切り迄に受け付けた注文を、出版社へ送り、出版社はその数に合わせて商品を生産し*2、発売日に、書店へ発注数通りに配本されるというパターン。
中社カズサ氏が今回のエントリーで取り上げられているのは、このパターンの事になります。

これは、中社カズサ氏が指摘されている通り、買切商品である為、売れ残った場合は返品する事が出来ず、書店のロスとなるので、発注する際には、予約以外の売れる可能性を読む為に、頭を捻る事になります。
その作品の普段の新刊の売れ行きや、その読者のうち、どの程度の割合の方が限定版を欲するのか…等々。

その結果として、専門店以外の郊外店や、個人経営の書店では、売れ残りというリスクを回避する為に、予約分以外の発注をしないという選択肢が選ばれる事が多くなり、市場に出回る数が少なくなります。

で、悲しい事に、「リスク」という言葉を口にすると、読者の方々から、志の問題を問われてしまう事の多い書店業界なのですが(笑)、単価が安いものが多く、その上、正味*3が定価の78%とかなので、一冊のロス*4が出ると、同じ商品を4冊売って、やっとチャラになるというのが現実なんです。買切の限定版を5冊仕入れて1冊でも売れ残ったら、「利益は無し」です。2冊以上なら損失です。薄利多売でなければやっていけない商売で、このリスク。

お客様には申し訳ないのですが、正直、腰が引けます。

更に腰が引ける要因として、最近では、都心部では専門店、地方も含めてネット書店の存在があります。
特にネット書店は、数量限定でない限りは、日本全国、どこででも、予約さえしておけば、ほぼ間違いなく手に入れる事が出来るという利点があります。

ネット書店は全国を対象に商売をしていますし、専門店はそれを目当てにわざわざ買いに来てくれるお客様がいるので、余分を取っても捌ける可能性が高く、発注数の上乗せがしやすい状況にあります*5。情けない話ですが、中小の大半の書店は「予約していない限定版に関しては、専門店かネット書店に頼ってもらえないでしょうか…_| ̄|○」というのが現状ではないかと思います。←そんな事ない、心意気を持った書店さんにはごめんなさいな書き方ですが…。

そういった要因で買切扱いの限定版は、発売後の市場在庫が少ないという事態になる訳です。
ですから、本屋さんとしては、「予約受付しているものに関しては、予約してね」というのが切なるお願いだったりします。基本的にこちらのパターンは、予約さえしていれば入手できますのでね^^


で、お次。
もう一つの限定版。
ある意味、書店にとってはこっちの方が性質が悪いのですが…。

買切で注文数どおり入ってくる限定版に対して、買切ではないけれども、入荷数をどうにも出来ない限定版があります。

主に、小冊子といった低価格な*6グッズが付いたものに多いのですが、「出版社が生産数を決めて生産し、それを同時発売の、『通常版の配本数に対して一定の割合*7』で配本をする」というパターン。

これは講談社小学館がよく使うパターンで、最近では「ハヤテのごとく!」12巻がこれにあたります。

ハヤテのごとく! 12巻 限定版 別冊「ハヤテ名作劇場」付き

ハヤテのごとく! 12巻 限定版 別冊「ハヤテ名作劇場」付き


これには買切のものと比べて「事前に予約の告知・受付が無い*8」という特徴があります。

このパターンは委託商品*9の為、以前のエントリー「確かになんとかならんもんかとは思う。」で書いたように、配本数に対するイニシアチブを出版社・取次が持っているので、書店側では配本数をいじる事が難しく*10しかも、書店への配本数が、発売2〜3日前にならないと確定しないという状況なので、確実な意味での「予約を受ける」という事が出来ないというのが実情です。
過去に「限定版を予約しに行ったけど、予約が出来なかった*11」という体験をした事があるのならば、その商品はこのパターンに当ると思われます。

これはもう、出回る数が通常版の約10%程度というパターンが大半なので、必然的に、というか、物理的に出回る数が少なくなります。
委託商品なので、発売後も書店としてはなんとか数を確保しようとするのですが、流通在庫*12も殆ど発生しないので、後はその書店*13が出版社に対してどの程度のパイプを持っているかというのがポイントになります。

買切も買切で難しいのですが、こちらも、「配本が期待出来ない」「欲しいお客様に確実にお渡し出来ない*14」という部分で難しい商品だと思います。

まぁ、こちらのパターンは、時々、派手に売れ残ったり*15地獄少女のように*16、重版されたりするようなお茶目があったりもするのですが…(笑)




さてさて、とりあえず、頼まれもしないのに、限定版コミックの薀蓄*17を私の出来る範囲で語らせていただいた訳ですが、肝心の「限定版コミックの存在を書店の人はどう考えているんだろう」という中杜カズサ氏の問いかけに対する私の答えなのですが。

正直、そろそろ潮時かな?という気はしています。
「限定版が欲しい」という需要は無くならないとは思いますが、一時期の「限定版の粗製濫造」的な時期を経て、既に「限定版ならなんでも欲しい」という読者は減り*18、好きな作品の限定版でも、「アイテムの良し悪しと値段のバランス」を見られている時期だと思います。



読者へのある意味、サービスとしての、良質な限定版は、書店にとっての扱いの難しさに関係なく歓迎したい所ではありますが、「プレミア感を出す為」「単価を上げる為」「オマケつければ売れるだろ」的な限定版は、売っていて楽しい物ではないですし*19読者を裏切る事になり、最終的には(そろそろ?)「限定版」という商売の首を絞める結果になると思います。

何より、まずは内容というか、オマケ以外の部分をキチンとして、本質的な部分で勝負してよ、と。どことは言わないけど…*20


やや、質問の意図とは違う答えになってしまったかもしれませんが、一応、正直な気持ちという事で。



まぁ、ネタな意見としては、売れ残りの限定版は置き場に困るねん、と(笑)


↓過去のちょいと関連エントリー
http://d.hatena.ne.jp/xeno666/20060131



以下、余談。中杜カズサ氏のエントリーに関して2点程捕捉的な事を。
信はないのですが、買切扱いの限定版も、基本的には再販対象になっていたのではないか思います。恐らく、オマケの分の金額を値引きして、本自体の値段はいじっていない*21のではないかと。(コメントの指摘により消去。現在、自分的に調査中)
後、書籍の買切商品は結構あって、「岩波書店の全商品」、かなり多くの「専門書」、殆ど有名無実化しているものの「発行後*223ヶ月を過ぎた書籍」も買切扱いになります*23
ハリーポッターは、初期は委託だったのですが、買切にする事で、「事前に書店が出した発注数を減数する事無く、責任を持って発売日に配本をする」というシステムをとるために買切になりました。

*1:売れ残っても返品出来ない

*2:たまに、あらかじめ生産数が決まっていて、受注数がその数に達した段階で予約受付が終了になるというパターンもあります

*3:仕入

*4:このエントリーでは売れ残りの事を指しますが、理屈としては万引きも同じです。

*5:それでも時々余って在庫処分状態になっている場合がありますが…。数が多い分、痛手はかなりのものでしょう…

*6:「チャチ」という言葉が似合う場合も…

*7:通常版の一割というパターンが多いようです。

*8:何を好き好んでこういうシステムを取るのか、私は知らないのですが、このパターンの商品は事前情報がなく、発売間近に発売が告知される。

*9:返品が出来る

*10:ある程度の希望を伝える事はできますが…。あくまでも希望。

*11:断られた

*12:取次ぎの倉庫等の配本の余りとか

*13:担当者

*14:予約できない

*15:「のだめ」の17巻とか…

*16:地獄少女は正確には限定版ではなく、特装版なので、それもアリ…なのか?!

*17:グチとも言えるw

*18:裏切られ続けた結果?

*19:無論、買われたお客様が満足であるならば、私がどうこう言う事ではありませんが

*20:やたらと買切タイプの限定版を出す割に全然予約が上がらず、会社事態の業績も悪化している某コミック系出版社M…

*21:通常版の値段を割らない値段

*22:奥付?

*23:文藝春秋の文芸書でスリップの色が白い物や、朝日新聞社の赤いスリップの物は未だにこれをまもっています